🦕未知の動物から巨大生物に至るまで・日本における「怪獣」の由来と変貌🦕

未知の動物から巨大生物に至るまで・日本における「怪獣」の由来と変貌

どうも、ぐっちーです。

日本で誕生したゴジラをきっかけに、今や日本のみならずハリウッドまでに進出した「怪獣(Kaiju)」。ハリウッドで製作されている「モンスターバースシリーズ」の影響で、「タイタン(Titan)」と読んでいる海外の方もおられるのではないでしょうか?

しかし、ゴジラが作られる以前の「怪獣」という呼び名の意味は、今とは全然違っていたのはご存じでしょうか?嘗て怪獣は「正体の知れない不思議な動物」という意味で、今のような「超常的な力を持った巨大生物」という意味ではなかったのです。それではどんな風に意味合いが変わったのでしょうか?

今回は、そんな知っているようで知らない「怪獣」の歴史をご紹介したいと思います。

中国大陸からやってきた「怪獣」

中国大陸からやってきた「怪獣」
画像はイメージです

現在日本で使われている感じの殆どは、中国大陸がルーツ。当然、「怪獣」という文字も、同じく中国大陸がルーツでした。

中国の古文書である「山海経」は、戦国時代から秦朝・漢代(前4世紀 – 3世紀頃)にかけて書きあがったもので、中国大陸に伝わる霊獣や妖怪から、実際の動物を網羅した内容となっております。その中の山経5書の一つ『南山経』では、以下の文章が記述されています

又東三百八十里 曰猨翼之山 其中多怪獸 水多怪魚 多白玉 多蝮蟲 多怪蛇 多怪木 不可以上
(東の380里を猿翼の山と呼び、その山中は怪獣が跋扈し、水には怪魚が数多あり、
 真珠などの宝石に溢れ、マムシが這いまわり、大蛇や怪木に溢れている。
 危険なので立ち入ってはならない)

また、紀元前の文学者・司馬相如が記した「封禅文」には、この様な一文があります。

然后囿驺虞之珍群,徼麋鹿之怪兽(騶虞という珍しい動物を飼育し、四不像という奇妙な獣を狩った)

ここで言う騶虞(すうぐ)や四不像というのは、古代中国では珍しい動物とされていますが、その彼らを「怪兽(奇妙な獣)」と呼んでいることが分かります。この様に、古代中国において「怪獣」という単語は「正体の知れない不思議な動物」という意味合いで使われ、現在で言う幻獣や妖怪を差す言葉だったのです。

江戸時代に登場した「怪獣」

江戸時代に登場した「怪獣」
※画像はイメージです

それでは、日本で「怪獣」という単語が使われるようになったのは、いつ頃なのでしょうか?

実は意外と最近で、江戸時代辺りに 太田玩鴎という人物が記した「玩鴎先生詠物雑体百首」という書籍の中に、「怪獣」という単語が出てきたのが、日本における初出とされています。

また、上記の画像でもある「奥州会津怪獣絵図」という当時の瓦版には、東北地方で子供が失踪する事件が相次ぎ、その犯人である怪獣を仕留めたと記述され、その怪獣の姿かたちが描写されています。

江戸時代に登場した「怪獣」
※画像はイメージです

また、同じく江戸時代には、現在の千葉県北部にある印旛沼で、江戸幕府の役人13名を殺害した怪獣の伝承が語り継がれています。地元民の創作ではないかという説もありますが、この当時から「怪獣」という単語が使用されていたことが分かります。

しかしながら、その当時の意味も「確認されていない生物・動物の類」というものであり、妖怪や魍魎とは少し違う意味合いで使われていました。

昭和初期・ゴジラ以前の「怪獣」

時代は江戸時代から、明治、大正、そして昭和へと移り変わりましたが、やはり依然として怪獣は「正体不明の不可思議な動物」という意味から逸脱していませんでした。

アメリカからやってきた「キング・コング」

アメリカからやってきた「キング・コング」
画像はイメージです

そんな中、アメリカから「キング・コング」という革命的とも言うべき特撮映画が上陸してきました。巨大類人猿のキングコングが、ジャングルやニューヨークを舞台に大暴れする内容のこの映画は、日本国内で大ヒットを遂げました。後に、ゴジラを製作することになる円谷英二も、この映画に影響されるなど、後の特撮に多大な影響を与えました。

しかしながら、この時の呼称は「怪物」「巨獣」「巨猿」などが主流で、「怪獣」という単語はマイナーな方でした。

未確認生物の呼び名だった「怪獣」

未確認生物の呼び名だった「怪獣」
画像はイメージです

では、当時から「怪獣」に該当し、そう呼ばれていたものとは一体何でしょうか?

実は、「ネス湖のネッシー」や「ヒマラヤの雪男」など、現在日本では「UMA(Unidentified Mysterious Animal)」と呼ばれ、海外では「Cryptid 」と呼ばれている未確認生物たちを差していたのです。姿かたちがハッキリしない彼らは、まさに「正体不明の不可思議な動物」そのものでした。

意外なことに、日本での彼らの紹介は古く、遅くとも明治時代頃からでした。そもそもネッシーは中世の時代から目撃談のある存在で、彼らが怪獣とされていたのは、目撃されているにも関わらず、一度も捕獲されたことが無い為、存在が確定出来なかったという点にあります。

また、当時の文豪・太宰治の小説にも、この様な一文があります。

私の下宿のすぐ裏が、小さい公園で、亀の子に似た怪獣が、天に向って一筋高く水を吹上げ、その噴水のまわりは池で、東洋の金魚も泳いでいる。
                       女の決闘 -太宰治- 1940年(昭和15年)

この文章では、街中で見かけた見慣れない動物でさえも「怪獣」と呼称しており、ゴジラ以前の怪獣達は「見慣れない奇妙な動物」という意味から脱却しきれていませんでした。

「怪獣」に大革命をもたらしたゴジラ

そんな「怪獣」という単語に転機が訪れたのは、皆さんご存じの「ゴジラ」の登場でした

「怪獣」に大革命をもたらしたゴジラ
※画像はイメージです

当時のポスターには「水爆大怪獣映画」の一文が添えられており、これが「怪獣」が現在の意味へと変化するきっかけとなりました。しかし、意外なことに検討用の台本では「怪獣」という単語は存在せず、「巨獣」「恐竜の生き残り」と表記されるだけでした。では、何故この時「怪獣」という単語が使われたのでしょうか?実は、アメリカから上陸してきた、ある特撮映画がきっかけだったのです。

その映画こそが「原子怪獣現る(The Beast from 20,000 Fathoms)」でした。原水爆で目覚めた太古の恐竜が、ニューヨークで暴れまわるという内容は、ゴジラにも少なからず影響を与えていました。しかも、奇しくも両作はほぼ同時期に封切られることになり、日米対決と話題にもなったのです。

東宝部としても、何としてもゴジラを売り出したいと、負けじと大々的な宣伝を繰り返しており、ポスターにある「水爆大怪獣映画」も、宣伝部が付けたものでした。おそらく、当時の東宝も「あっちが原子怪獣なら、こっちは水爆大怪獣だ!」と、売り言葉に買い言葉といった対抗心から命名したのでしょう。

何はともあれ、これによりマイナーだった「怪獣」は、「未確認生物」に加え「ゴジラ」という新しい意味を与えられ、一般へと流布されるようになったのです。

恐竜ではないリアリティを与えられた「怪獣」

また、劇中でのゴジラは、怪獣本来の意味でもある「正体不明の不可思議な生物」を体現した存在でもありました。

というのも、劇中ゴジラは「海棲爬虫類から陸上獣類へ進化する過程の中間生物」という現実では存在しえない、全く未知の生物として解説されており、「恐竜」でさえない存在なのです。結局、劇中ではその正体が不明なまま映画が終わってしまい、ゴジラは文字通りの正体不明の生き物「怪獣」だったのです。

恐竜ではないリアリティを与えられた「怪獣」
※画像はイメージです

ゴジラ以前にも、「キング・コング」のコングや、「ロスト・ワールド」のブロントザウルスといった怪獣的な振る舞いをするモンスターは居ましたが。ゴジラが決定的に違っていたのは、種別がハッキリしない正体不明の動物であったことでした。それはまさに、かつて存在が信じられながらも正体がハッキリしなかった、ネッシーや雪男のような「何処かにいるかもしれない」というリアリティを与えるものでした。

こうしてゴジラは、「恐竜」ではないからこその絶妙なリアリティを帯びた存在として、独特の存在感を観客に与えたのです。

見世物として銀幕を席巻した「怪獣」

こうした「ゴジラ」という存在は、ある意味では「怪獣=未知の生物」を映画という形でお見せする、いわば「見世物」としての側面もありました。見たことが無い未知の生き物をもっと観たい。そんな観客の要望もあってか、ゴジラ以降も数々の怪獣達が銀幕を席巻しました。

「空の大怪獣ラドン」「大怪獣バラン」「モスラ」など、ゴジラ以降も数多くの怪獣映画が銀幕に登場し、観客を大いに賑わせました。これらの作品群でもやはり怪獣は、冒頭辺りまでは「未知の生物」として姿を見せず、中盤でその巨大な全貌を露わにし、終盤に掛けて人類を巻き込む事件を起こす。といったゴジラと同じような流れを汲んでいました。

やがて、単発ものでは物足りないと思われたのか、「キングコング対ゴジラ」「モスラ対ゴジラ」といった対決ものへとシフトしていき、映画界を席巻し続けたのです。この様な怪獣映画が製作されていくに連れて、怪獣という単語も「得体のしれない不可思議な動物」から、「映画に出てくる空想上の巨大生物」という意味へと変わっていきました。

しかしながら、ゴジラという存在が余りにも有名になり過ぎたせいか、「怪獣=ゴジラ」というイメージが広まってしまったようで、特に恐竜を模したキャラクターの場合は、「怪獣」ではなく「ゴジラ」呼ばわりされたこともあったそうです。

あの漫画の神様・手塚治虫でさえも、後述する「ウルトラQ」に対して「毎週ゴジラをやられたんじゃ、敵うわけがない!」と、自身が原作を務めていたアニメへの影響を心配していたと言います。この発言から「怪獣=ゴジラ」というイメージが流布していた事が伺えます。

こんな風に、怪獣が本格的に現在の意味になるには、もう少し時間が掛かったのです。

ウルトラシリーズが定着させた「怪獣」

1966年1月2日、TBS系にて「ウルトラQ」が放送。遂にテレビに怪獣たちが進出しました。

それまでは映画館でしか見ることが出来なかった怪獣達が、誰でもテレビで怪獣達を見ることが出来るようになった事により、当時の子供たちを中心に爆発的な怪獣ブームが到来しました。王道の怪獣ものの他に、本格的なSFや怪奇ホラー、ファンタスティックなジュブナイルものまで、バラエティに富んだ1話完結式のストーリーも相まって、高視聴率を記録しました。

そして、同年7月17日、「ウルトラマン」が放送。子供たちの間で更なる人気を呼びました。

M78星雲の光の国から現れた正義の巨大ヒーローと、次々と現れる怪獣や宇宙人との対決は、子供たちを夢中にさせ、怪獣ブームを更に加熱させました。毎週登場する怪獣や宇宙人達は、それまでの映画怪獣とは異なる鮮やかで個性的なデザインのものが多く、光線技や火炎、毒ガスにバリヤーやテレポートなど、巨体による怪力に頼らない多彩な超能力を披露し、視聴者を飽きさせない工夫が凝らされました。

こうした、ウルトラシリーズの誕生による怪獣の大量発生により、徐々に「怪獣=ゴジラ」という図式から、「怪獣=超常的な力を持った巨大生物」という現在のイメージへと変わっていき、現在に至ることになったのです。

日本から世界へと飛び立った「Kaijy」

そして、21世紀の現代、「怪獣」は日本のみならず世界にまで進出しています。

2013年にハリウッドで製作されたSF映画「パシフィック・リム(Pacific Rim)」では、侵略者が送り出してくる怪獣と、それに対抗する巨大ロボットとの対決が描かれており、劇中でも怪獣は正式に「KAIJY」と呼称され、アメリカでも怪獣が広く認知されるようになりました。

また、2014年製作の「GODZILLA」を皮切りに製作された「モンスターバースシリーズ」では、怪獣は「Titan(巨神)」と呼称され、日本における怪獣のイメージを海外風に落とし込んだものとなりました。

今や「怪獣」は、日本だけでなく世界にも拡散しているのです。

昔から現代、そして未来へ向かう「怪獣」

いかがでしたか?

嘗ては「正体の分からない不可思議な動物」とされ、「超常的な能力を持った巨大生物」へとその意味を変えた「怪獣」

今や、日本のみならず世界へと飛び出し、映画やテレビだけでなく、漫画やゲーム、アトラクションに至るまでその活躍の幅を広げています。これから先、怪獣はどのような進化を遂げ、どんな意味へと変わっていくのでしょうか?

怪獣達の今後の未来が楽しみですね。

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