日本語でしかわからない?和歌の魅力 古今和歌集 巻四:秋上 241首~248首

日本語でしかわからない?和歌の魅力 古今和歌集 巻四:秋上 241首~248首
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古今和歌集・秋上 第241~第248首の魅力
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秋上第241首から第250首は、秋の野に咲く花や草、虫の声などを通して、移ろう季節の寂しさや人の心の機微を繊細に詠んだ歌が並ぶ。

自然の美しさと人間の感情が巧みに重ね合わされ、平安時代の情趣や美意識が色濃く表現されている。

身近な風景や儚さを題材に、詠み人それぞれの個性や人生観が感じられるのが特徴。


和歌:
ぬし知らぬ   香こそ匂へれ  秋の野に  たが脱ぎかけし   藤袴そも

ローマ字:
Nushi shiranu ka koso nioware aki no no ni ta ga nuki kakeshi fujibakama sono

第241首 作者: 素性 (Sosei)
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意味: 誰のものか分からない香りが秋の野に漂う。誰が脱ぎ捨てた藤袴なのか。

背景: 藤袴の花を、誰かが脱ぎ置いた袴に見立て、秋の野に漂う香りから人の気配や物語を感じさせている。

翻訳の難しさ: 「ぬししらぬ(主知らぬ)」に込められた、見えない誰かへの淡い想いや余韻の美しさ。
花と衣を重ねる日本独特の感性や、香りで人の存在を感じる繊細な情緒が伝わりにくい。


和歌:
 今よりは 植ゑてだに見じ  花薄   穂に出づる秋は  わびしかりけり

ローマ字:
Ima yori wa uete dani miji hana susuki ho ni izuru aki wa wabishikarikeru

第242首 作者: 平貞文 (Taira no Sadafumi)
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意味:これからは植えてまで見ようとはしない。花薄の穂が出る秋は、この上なく侘しいものだから。

背景: ススキが穂を出す秋の寂しさから、これからは植えてまで鑑賞しないと詠み手が感じている心情を表している。

翻訳の難しさ: 「秋(あき)」に「飽き」を掛ける言葉遊びや、穂が出て枯れていくススキに人生の寂しさや無常を重ねる日本独特の感性。


和歌:
 秋の野の    草の袂か     花薄    穂にいでて招く   袖と見ゆらむ

ローマ字:
Aki no no no kusa no tamoto ka hana susuki ho ni idete maneku  sode to miyuramu

第243首 作者: 在原棟梁 (Ariwara no Munehira
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意味: 秋の野の草の袂だろうか。薄の穂が袖を振り、人を招いているように見える。

背景: ススキを人の動作に擬人化。宮中歌合で自然の風雅を競った作品。

翻訳の難しさ: ススキの穂が風に揺れる様子を、和服の「袂」や「袖」に見立てて人を招く仕草と感じる、日本独特の擬人化と衣服文化の美意識。


和歌:
 我のみや   あはれと思はむ きりぎりす 鳴く夕影の    大和撫子

ローマ字:
Ware nomi ya aware to omowan kirigirisu naku yūkage no yamato nadeshiko

第244首 作者: 素性法師 (Sosei Hōshi)
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意味: 私だけがいとおしいと思うのだろうか。きりぎりすが鳴く夕闇に揺れる撫子の花を。

背景: 秋の夕暮れ、コオロギの鳴く中でひっそりと咲く大和撫子の可憐さを、自分だけが愛でているのかと詠み手が自問している情景

翻訳の難しさ: 「あはれ」に込められたしみじみとした感動や、「や」による反語表現で、共感を求めつつも孤独を感じる日本独特の余情


和歌:
 緑なる   一つ草とぞ    春は見し   秋は色々の   花にぞありける

ローマ字:
Midori naru hitotsu kusa to zo haru wa mishi aki wa iroiro no hana ni zo arikeru

第245首 作者: 読人不知
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意味: 春は緑一色の草とみていたが、秋には色とりどりな花になるものだ。

背景: 春には野原が緑一色で、すべて同じ草だと思っていたものが、秋になると実はいろいろな花だったと気づく自然の変化への驚きと感動を詠んでいる。

翻訳の難しさ: 春と秋、単色と多色、草と花という対比の美しさや、何気ない風景の中に多様性や発見の喜びを見出す日本的な感受性が伝わり難い。


和歌:
 百草の     花の紐解く   秋の野を   思ひ戯れむ  人なとがめそ

ローマ字:
Momokusa no hana no himo toku aki no no o omoi tawaremu hito na togameso

第246首 作者: 読人不知
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意味: 多くの花がほころぶ秋の野に、心遊ばせる私を、誰も咎めないでほしい。

背景: 「紐解く」には花の開花だけでなく、恋や人間関係の垣根を解き、束縛から離れて思いのまま楽しむことへの憧れや、女性の解放的な心情も込められている

翻訳の難しさ: 「紐解く」に花の開花と人の心の解放を重ねる、日本語特有の多重的な意味づけ。
自然と戯れることが、単なる遊びでなく心の自由や人生観と結びついている繊細な情緒が伝わり難い。


和歌:
 月草に    衣は摺らむ    朝露に    濡れての後は   移ろひぬとも

ローマ字:
Tsukikusa ni koromo wa suramu asatsuyu ni nurete no nochi wa utsuroi nu tomo

第247首 作者: 読人不知
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意味: 露草で衣を染めよう。朝露に濡れ色褪せてもしまっても。

背景: 「ツユクサの色に衣を染める」とは、より添って親しくなるということ、「朝露に濡れた後は色褪せてしまう」とは、移ろいやすい相手の心をあらわしているのだろうか。

翻訳の難しさ: 「移ろひぬとも」に込められた、色褪せやすい花の性質を人の心や恋の儚さに重ねる日本独特の比喩や、瞬間の美を惜しむ繊細な感性が伝わり難い。


和歌:
 里は荒れて  人は古りにし  宿なれや    庭もまがきも   秋の野らなる


ローマ字:
Sato wa arete hito wa furinishi yado nare ya niwa mo magaki mo aki no no ra naru

第248首 作者: 遍昭 (Henjō)
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意味: 里は荒れ、人も老いた宿だからだろうか。庭も垣根も、まるで秋の野のようだ。

背景:年老いた人は作者である遍昭の母のこと、親王が宿泊する家なのでしっかりとしていると思うが、謙遜の意味で秋の野原のようと詠んでいる。

翻訳の難しさ: 控えめな自己表現や、もてなしの心の奥にある謙遜や気遣いといった、和歌特有の情緒や人間関係の機微が伝わり難い。


まとめ
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秋上241~250首は、自然の微小な変化に人間の情感を重ねる技巧が光る。匿名作品を含め、植物や虫の声を「衣」「袖」など身体表現に転化し、季節の移ろいを「香り」「色彩」「音」で多角的に描写。

とりわけ「藤袴」「薄」「撫子」は、貴族文化と野趣の融合を象徴する。

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